2018-21年度の4年間(1年延長し22年度末終了予定に変更)を期間とし、日本学術振興会 科学研究費補助金の採択を受け、「生鮮食料品の流通改革とグランドデザイン:水産物を巡る制度流通の現代的意義と商機能」の調査・研究に取り組んでいます。


 我が国の生鮮食料品流通は、卸売市場法(1971年施行、その前身の中央卸売市場法(1923年制定)を含めれば約100年の歴史)及び農林水産大臣策定の卸売市場整備基本方針等に基づき市場の全国整備と適正配置が進められ、産地・消費地を結ぶ市場間の有機的な結合(ネットワーク化)と、国・地方公共団体による管理・運営の関与等を基礎として、公正・公平で公開・効率的な取引・価格形成の場を生産者や川下業者に保障する社会的装置として卸売市場(又は当該流通システム)は重要な役割を担ってきました。しかし、中央卸売市場法は勿論、卸売市場法にあってもその制定当時の前提は、経時的な品質変化が伴い易い生鮮食料品を対象に、国内各地に散在する零細多数の生産者(産地)と零細多数の小売業者等(消費地)を効率的に結ぶことにあったと言えます。ところが、例えば戦後高度経済成長過程で進むモータリゼーションの進展、スーパーマーケットの誕生や以後の台頭(逆に進む専門小売店の縮小・衰退)、コールドチェーンの進展に伴う広域低温流通の可能性のひろがり、さらには円高の進展や世界的な貿易自由化の動きと相俟った輸入増加など、生鮮食料品流通を取り巻く環境や条件は劇的に変化し、言い換えれば流通・取引のあり方が制度制定時の想定を大きく越えて変質する中で、それは卸売市場法の原則・諸規定と、卸・仲卸(市場業務の担い手)の実務・活動とのズレとなって現れるなど制度の形骸化が問題化したり、そもそも制度規定が市場業者の業務上の足枷となって川上・川下ニーズやその変化への順応を遅らせるなどの問題が生じることも否めません。

 こうした状況を改善するべく、1999年と2004年の2度にわたって卸売市場法の改正、簡単に言えば法制度の規定を緩め、流通・取引の実態に制度を近づける各種規制緩和が行われたほか、中央卸売市場の地方転換・再配置や市場業者の信用強化を狙った財務改善等が進められてきました。しかし、市場経由率の低下はとまらず、経営不振に陥る卸・仲卸が現れるなど閉塞感を打破する道筋は見い出せていません。こうした状況下で、2016年秋、所管省庁の農林水産省ではなく、内閣府に設置された規制改革推進会議農業WGがTPPを見据えた農業系統組織改革等と絡めて中間流通の抜本的な合理化の必要性を説き、卸売市場制度の廃止論さえ浮上することとなりました。結果的に、与党市場議員連盟等の働きかけ等もあって同法は維持されることとなりましたが、一律規制は公正・透明な取引確保に関わる必要最小限し、条文が現行の7章83条から6章19条に大幅に削除されるなど、制度そのものは大きく変質しています(改正法案は2018年6月に国会を通過、20年6月21日施行予定)。

 個人的には、流通改革自体に異論はありませんが、何より重要なことは、市場制度の存続(チャネルが市場か市場外か)如何や川上・川下の直接取引の促進(言い換えれば中間流通合理化)そのものよりも、むしろ持続的で健全な農漁業や国民消費に資する流通(次世代型の新たな仕組み)とは如何なるものか、あるいは流通はどうあるべきかを再考し直すことだと考えております。勿論、そのためには、改革ありきの改革、改革のための改革ではなく、制度など卸売市場流通の内部に潜在する問題の特定は勿論、市場利用者側が卸売市場又は当該流通システムを如何に位置づけ、彼らの出荷または仕入上利用し、どの様に評価しているのか、その実相を捉えることも重要です。

 上記の様な認識に基づき、この研究は水産物を対象に「生産・消費の持続・安定に資する流通」の要件と再編課題を、卸売市場流通(制度)の現代的意義や機能の検証を起点に考究することを目的としています。なお、具体的な調査対象組織や内容・結果等の詳細に関する記載は控えさせて頂き、以下、これまでの主な活動経過を列挙します(その都度更新予定です)。

<論文・報告書等公表>

※山本尚俊・北野慎一:卸売市場流通を巡る情勢と問われる市場業者の姿―川上・川下による取引チャネル・組織評価に注目して―、地域漁業研究投稿・審査中

〇山本尚俊・北野慎一:漁協系統組織の鮮魚販売事業を巡る消費地卸売市場出荷の位置と評価、長崎大学水産学部研究報告、Vol.101、pp.150-168(2021年4月)

〇山本尚俊・北野慎一:量販店の水産物仕入を巡る消費地卸売市場の利用実態と評価に関するアンケート調査(集計結果概要)、2020年12月 ※調査協力先向け報告書

〇山本尚俊・北野慎一:鮮魚出荷を巡る消費地卸売市場の利用実態と評価に関するアンケート調査(集計結果概要)、2019年11月 ※調査協力先向け報告書

〇山本尚俊:卸売市場制度の改革と「卸・仲卸二段階制」の揺らぎ-水産物卸による垣根乗り越えの動機と含意に注目して-、地域漁業研究、Vol.59(2)、pp.97-104 (2019年7月)


<口頭発表> ※〇は付記あり、●は付記なし

〇山本尚俊・北野慎一(2022年11月13日):卸売市場流通を巡る情勢と問われる市場業者の姿―川上・川下による取引チャネル・組織の評価に注目して―、地域漁業学会第64回大会 一般報告、オンライン開催 [口頭発表(Zoom)]

〇山本尚俊(2022年11月12日):地域漁業学大64回大会シンポジウム“沿岸漁業振興におけるIT&ICT技術の活用に関する検討ー水産物流通へのアプローチー”において「ICT等を活用した水産バリューチェーン構築について―川下量販の仕入・販売問題や対応を念頭に―」と題しコメント発表、三重大学(Zoomオンライン)

●林東薫・亀田和彦・山本尚俊(2019年12月1日):日本の海苔市場変容下で見られる日韓海苔流通取引の現局面、地域漁業学会第61回大会・一般報告、2019年12月1日、長崎市・長崎大学

●林東薫・亀田和彦・山本尚俊:韓国による対日海苔輸出にみられる流通取引の変化と特徴、漁業経済学会66回大会・一般報告、2019年6月30日、東京都・東京海洋大学

〇山本尚俊(2019年6月29日):2018年卸売市場制度改革の特徴と今後の展望・課題-卸・仲卸間の関係性に焦点をあてて-、漁業経済学会第66回大会シンポジウム“水産業変革の諸相と将来ビジョン~時代の転換点を迎えて~”、東京都・東京海洋大学

〇山本尚俊(2018年10月28日):卸売市場制度の改革と「卸・仲卸二段階制」の揺らぎ-卸による垣根乗り越えとその経営的動機に注目して-、地域漁業学会第60回大会・個別報告、奈良市・近畿大学農学部

〇山本尚俊・北野慎一(2018年9月15日):組織内・組織間関係から見た量販店のロス・原価抑制の対応と特徴-クロマグロを中心に-、日本流通学会2018年度第2回九州部会・研究報告会、佐賀市・佐賀大学

<主な調査活動等>
・地方都市 中央卸売市場の水産卸で聞き取り調査実施及び原稿チェック依頼(2023.1.16)

・関東を商圏とする大手SM、ローカルSMを対象に、水産物仕入及び市場法改正等に係る聞き取り調査を実施(2022/9/12-14)

・大阪本場の仲卸組合、業界新聞社等で改正市場法施行後の変化等に関する聞き取り調査、京都大学で共同研究者と打合せを実施(2022/8/24-26)

・改正市場法施行後の市場・取引の状況等に関して豊洲市場卸、場外荷主等で聞き取り調査を実施(2022/6/29-7/1)

・地方都市 中央卸売市場の水産卸を対象に昨年度調査に係る補足調査を実施(2022/6/7-8)

・地方都市 主力中央卸売市場の水産卸A社(代表取締役社長、取締役鮮魚部長等)と、同県下漁協B・Cの代表理事組合長を対象に、川中起点での協働型の商品開発(養殖魚・天然魚)の取り組み等について聞き取り調査を実施(2021/9/13-14)

・関東・監査・九州の量販約500組織を対象に「量販店の水産物仕入を巡る消費地卸売市場の利用実態と評価に関する調査」(郵送アンケート調査)を実施(2020/9/23-10月末) ※量販店:GMS/SM、生協/農協系小売組織、鮮魚小売チェーン

・関東・関西・九州の量販店を対象とした郵送調査の実施に向けて事前・予備調査(内容確認)として県内の地場量販店A社で聞き取り調査を実施(2020/7/15)

・全国の沿海地区漁協及び都道府県漁連約900組織を対象に「鮮魚出荷を巡る消費地卸売市場の利用実態と評価に関する調査(郵送アンケート調査)」を実施(2019/9/6-30) ※調査票の返送受付2019年10月21日終了。

・福岡市場の水産物卸を対象に、現行市場法の改正に関わる認識及び条例改正に向けた動きに関して聞き取り調査及び資料収集を実施(2019/7/29)
・漁業経済学会第66回大会シンポジウムにて卸売市場制度改革に関して口頭発表を実施、個別報告に参加し情報収集、分担者(京都大学 北野氏)と打合せ(2019/6/29-30)
・某県漁連を対象に、漁協系統を対象とした消費地市場の利用実態等に関するアンケート調査の事前調査を実施(2019/6/14)
・京都大学で水産物流通調査(川上の消費地市場利用実態と出荷先選択に関する調査)に関する打合せを実施(2019/3/4)

・東京に本部又は支社を持つ某漁連2組織で漁協の販売事業等に関する聞き取り調査・資料収集実施(2019/2/28) ※科研費以外の予算で実施。

・水産物の市場・流通構造に関する調査を海苔(佐賀)を対象に実施(2018/11/22)
・地域漁業学会第60回大会において、卸売市場制度の改革と「卸・仲卸二段階制」の揺らぎをテーマに個別報告を実施(2018/10/28)
・日本流通学会九州部会(佐賀大学)で、量販店の仕入・販売行動に関して口頭発表を実施(2018/9/15)
・関東の中央卸売市場の水産卸D社とE社で、対仲卸関係を念頭に卸の現行業務・経営実態・問題に関する聞き取り調査を実施(2018/8/30)
・関東の大手SMの鮮魚バイヤーを対象に、上記中央卸売市場における卸の量販店対応・取引の実態、および量販店から見た卸売市場評価等に関する聞き取り調査を実施(2018/8/29)
・関東の中央卸売市場の水産卸B社の元経営幹部を対象に、卸経営・業務の変遷と実相に関して聞き取り調査を実施(2018/8/3)
・関東の中央卸売市場の水産卸B社・C社で、対仲卸関係を念頭に卸の現行業務・経営実態・問題に関して、また開設者(地方自治体)で卸・仲卸の経営動向等に関する聞き取り調査と資料収集を実施(2018/8/2)
・関東の中央卸売市場の水産卸A社で、対仲卸関係を念頭に卸の現行業務・経営実態・問題に関する聞き取り調査を実施(2018/8/1)





ご協力ありがとうございました。10月末をもって受付を終了しました。

関東1都6県・関西2府4県・九州7県に本社をおく主要量販店の皆様にご協力をお願いし、現在、水産物流通の問題や今後のあり方を検討する基礎情報として、消費地卸売市場の利用実態・評価等に関するアンケート調査を実施しております(期間:9/23-10/14)。調査の目的や対象等は調査票同封の「ご協力のお願い」に記載の通りですが、今後の水産物流通のあり方や仕組みの検討上、川下、特に家庭内消費向けの流通において重要な役割を担う量販店の仕入・販売実態を切り口に、消費地卸売市場の位置づけや今日的な意義をチャネル評価・認知等を含め把握・確認したいと考えております。それには、皆様のご意見とご協力が何より不可欠です。ご多忙の折に誠に恐れ入りますが、調査の趣旨をご理解頂き、ご回答・ご協力の程なにとぞ宜しくお願い申し上げます。


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